TOUCH WOOD VOL.15

究極の木材「銘木」×究極の染料「藍染」

藍染とは、布製品を蓼藍(タデアイ)という植物の染料で染めたものを言う。落ち着いたブルーがとても素敵で、江戸時代には侍をはじめ作業着から高級衣料まで多くの民衆に身につけられたことから侍ブルー、ジャパンブルーと呼ばれてきた。天然の藍は雰囲気が良いだけではなく抗菌作用や抗アレルギー作用があるため、藍染の衣料はアトピーの軽減やニオイ対策にもなるのだそう。

ある日、四国の「藍染の館」へ観光に行ってきた私の父は、この絶妙な色合いが「ただ好き」という理由だけで高級一枚板の原板を藍染に染めてしまった。(厳密にいえば、通常布に藍染を施す壺には一枚板は大きすぎて入らないので、職人と相談して塗装したのだが。)父は無類の銘木好きで、日々の建築資材販売の仕事の傍ら一枚板や銘木に関する商品開発を少しづつしては楽しみとしている。それも今回藍染にした板は、社員からも原木屋さんからも「何ともったいない事を!!」と言われるほどの立派な総玉杢のタモだ。色白で木目も素晴らしい希少価値の板をベタっと染めてしまい一人満足気な様子に呆れたが、しかし時すでに遅し。しばらくして仕上がった一枚板が届いたというので社員数人で見に行ってみると、梱包を開けた瞬間皆が絶句した。それは、全面にある玉杢の木目が浮き立つように見事に藍色で染まり、息をのむほどの美しさだった。

海の色、宇宙の色など人によってイメージは異なるが、単なるネイビーではなく深みを感じさせる仕上がりだ。調子に乗った父は、それからタモだけでなくセン、トチ、ケヤキ、スギと数多くの国産材を藍染に仕上げ、うちの会社は瞬く間にマニアックな青い一枚板でいっぱいになった。並べてみると、藍染の青と板本来の色が混ざり合う事で一枚一枚全く同じ色にはならず、淡い藍色から深い藍色までオンリーワンの雰囲気を醸し出す事が分かった。

藍染を通して、本物の美しさに触れられる機会を

藍染とは日本伝統の染料と思いがちだが、面白いことに実はツタンカーメンのミイラにも藍染が使われていたらしく、そのルーツは海外だそう。さらに2000年ほど遡って紀元前3000年インダス文明の世界ではすでに藍染が使われており、もともとは飛鳥時代に中国から伝来してから、高貴な役人の衣料になったり宗教ごとや薬にも使われたりと日本文化に欠かせない存在として根付き、日本伝統製品の地位を確立していったのだろう。しかしインディゴという合成染料が藍染をとって代わるまでに長い時間はかからなかった。藍染料を専門職人が作るまでに約2年かかり、その製造工程では立ち込めるアンモニア臭と熱気の中を100日ほど肉体労働したりと半端なく過酷だからだ。日本文化にありそうでなかった藍染の一枚板は、海外でも見に来る人全員が青い板を撫でて「これは何?」と聞いてくれる程人々の評価が思いのほか高く、展示会で並べた藍染の一枚板と普通の一枚板のうち、青い板から順番に売れていく事もあった。最初は社長の好みで始まった藍染一枚板プロジェクトだが、だんだん社員も好きになっていくから面白い。

全てが便利で合理的な現代に、こんなにも時間と手間をかけてわざわざ作っている染料と、時間と手間をかけて乾燥・加工している一枚板。その価値には高い評価をもらっても、どちらも職人が減っていて今後の承継が危ぶまれる。未来のこどもたちのために、今こそこのような本物の美しさに触れられる機会を作り、その熟練の技術を守り伝えていきたい。