TOUCH WOOD VOL.24
玄人憧れの木の宝石、チークの深イイ!?話。
先日私が経営している木工所で「オールチーク無垢のカップボード」のオーダーが入った。棚板や裏板までもすべてチークの無垢で、木が好きな私からするとオーダーならではのこんな贅沢な仕様の家具は、初めてのオーダーだ。私も多くの材木屋に漏れず、一番好きな木はと聞かれたらチークがまず選択肢に浮かぶくらい「木の宝石」チークが大好きだから、この製作はとても嬉しかった。
最高級のミャンマーチーク
チークはミャンマー産とインドネシア産が主流だが、ミャンマー産がその質において最高級とされている。だが現在はミャンマー国策で伐採や原木のままの輸出が原則禁止されており、良材は非常に手に入りにくく高価な稀少木材で、黒い縞が美しく表れる表情が特に高級な材料として取引される。というくらいの事しか知らなかったのだが、ちょうどその頃海外にチークの原木を見に行く仕事があった。取引禁止になる前からもう何年も置いてあるという山積みのチーク原木は、アマチュアの私には木味の良し悪しなどさっぱり分からない程その表面が全面グレーに変色している。木によってはフレッシュな原木でないとどんどんモノが悪くなるものもあるが、チークは外見が変化しようが中身は悪くならないので、その昔は財産変わりにチークを購入していた世界中の材木屋も多かったというから、その名残だろう。こんな見た目でも直径80センチ以上のチーク原木が大量にある場面に出くわした瞬間チークが好きな私はテンションが一気に上がった。上がりすぎて3メートル以上の高さに積まれた丸太に乗っかり上のものも間近で見たくなったが下から一本目に乗ったところで転んで落ち、日頃の温室育ちを反省したが何とかほんの一部を日本に連れて帰ることが出来、うれしい体験だった。
本物の木材を提案したい
同じタイミングでミャンマーの森で生活しチークをさまざまな国のインテリアに提案する人に出会った。彼はチークを人々に提案することでミャンマーの人を救おうと活動していて、日本でぬくぬくと暮らしている私にはその話のスケールが衝撃的だった。彼曰く、世界中の豪華客船や日本のクラシックホテル等の格式高いインテリアに使われる世界水準の高級ブランド、チークが産出される国なのにミャンマーでは未だ戦闘地帯があり、子供が銃を持っている悲しい現実を目の当たりにしたと言う。そして良質な木材が取れるのに、チークの生息するジャングルのような森には電気も水道も道もないから当然チークを加工したりする工場もなく、木材資源だけ外国にどんどん持っていかれるのは、地元民には複雑な思いがあるそうだ。私は政治的なことは分からないが、いずれ現地に工場を作って人々に銃ではなく木工機械を持たせたいというその思いには、ミャンマーの現実を実感しない私にも伝わってくる熱量があった。
そんな話をただ聞いただけの私だが、単にチークが好き、からチークを使いたい、と思うようになった。科学技術が発達し良質なシートや合成木材がたくさんある現在、本物の木材を提案する理由に、「手触りやこだわり、上質感」という以外に「人々の暮らしやそこにある森を守れるから」という理由があれば、材木屋にとってこんな素敵な仕事のやり甲斐があるだろうか。チークに限らず日本の森も世界の森も、生産者やバックグラウンドについて少しだけ興味を持てば、さまざまなストーリーや思いが見えてくる。だから木は奥深くて面白い。そんな木の素晴らしさをいろいろな角度から人々に伝え続けていきたいと改めて思った。