TOUCH WOOD VOL.21
やっぱり大好きな日本と強気なアメリカ、日米木材事情。
欅、欅、欅、桜、欅、欅。時々違う樹種が混じるがこれほど多く欅(けやき)の原木が集まるところを初めて見た。欅は寺社仏閣などにも使われる日本代表の広葉樹で、ここは欅が使われる時にはここから大半が出ていくという関東の木材市場である。古い建物がなく綺麗な施設が立ち並ぶ新都市のような街並みに突如現れた巨大な市場にどんどん原木が運ばれている。ここは一枚板や丁物になった製品は殆どなく丸太ばかりで、私には未だ分からない玄人の世界という感じがワクワクする。今回は午前中ここで欅を検品して午後からアメリカの原木土場へ検品しにいく広葉樹ツアーを組んだ。
その日は市日ではなかったので、市場のスタッフが送迎してくれた上に見回って検品する前にも数百本はあろうかという丸太の中からこちらの好きそうな丸太を事前にピックアップし案内してくれ、指値や要望を細かく聞いてくれた。たった2~3名で実務運営をしているという市場、大変忙しいようなのに帰りには一緒にそばを食べながら最近の木材事情などの情報を教えてくれ、温かいホスピタリティを感じた。
交渉となると強気のアメリカ。
そこから15時間後アメリカへ到着し、産地近くの土場へ向かった。アメリカはとにかく広大で飛行機が国民の主要な移動手段であることを感じるし、場所から場所への移動が3時間くらいならばまぁ近いね、といった感じだ。夜明けが8時過ぎなのに朝7時半待合わせで5時に出発した冬の森は、スマホのナビと車のヘッドライトのみを頼りに、合っているかも分からない真っ暗の山道を大のおじさんたちが集まってキャーキャー言いながら走り、ようやく空が白けてきた頃に全員で安堵した。そうして着いた土場では、素敵なホワイトオークやウォールナットたちに出会えた。が、交渉となると強気のアメリカ。広葉樹業界でも例に漏れずアメリカは、羨ましいほどに欲しければどうぞというスタンスを崩さない。世界中から毎週のように買い付け業者が訪れるようで、日本の他の業者で価格交渉しようとしたら「帰ってけー」と言われて手ぶらで帰ってきたという話も少なくないし、私たちも初アメリカの時はそれに近い空気は感じた。
こちらがピックアップした丸太でも価格が高いなぁと思いこれはいらないと伝えると「なぜ、指値は」と追及するくせに指値を伝えると早口で怒ってくるという強気ぶり。現地パートナーが「俺より絶対年下なんだけどなぁ」とボヤいていたのには笑ってしまった。アメリカでは年を聞くと「なぜ年を聞くのか」と問い返されるくらい年は仕事に関係ないのだ。とはいえ、数年かけて関係を築いてきた効果はほんの少しづつ出ているようで、ランチに社員の賄いのサンドイッチ(絶品)とポテチを食べさせてくれたり日本での販売事情を考慮して相談してくれるようになった上、ついには怒りながら販売してくれるようになった。
日本の誇る木材を日本人らしく発信し続けたい。
コンシェルジュのような対応の日本と、買うのなら買えばというアメリカ。いやアメリカというより日本が特殊で、良い素材と世界への発信力や販売力を持っていればこれがグローバルスタンダードなのかもしれない。欅などウォールナットより余程古い時代から歴史を支えた文化財にもなる素晴らしい木であるから日本もそうすべきだとは思うが、いざ自分のところにわざわざ海外から材木を見に訪問してくれる業者があるとすれば、きっと社内連携して商品を準備しホスピタリティある対応を待ち構えるようにしてしまう。日本人としてそれが良くも悪くも私たちに染みついたDNAなのだから、そんな「おもてなし」の良さも活かして日本が誇る材木を世界からどんどん買い付けに来てくれるよう夢見ながら世界に発信し続けたい。