TOUCH WOOD VOL.19
国産材を愛する台湾と日本、木材お国事情。
日本から飛行機で約3時間半、エキゾチックで美味しいアジアの都市、台北にいるはずなのに、岐阜の地酒、キャラクター、木製小物などが所狭しと並んだ「岐阜」を前面にアピールした展示ブースがオープンした。ここは台北中心部の建築資材ショールームビルで、岐阜県林政部が岐阜県産材の認知・販売拡大のため有志企業を5社程集め、県の事業として台湾内で最もヒップなマテリアルが揃うこのビルに半年ほど期間限定出展を決めたのだ。行政が全土合わせても2300万人の市場にこのような民間の販売促進に繋がる事業展開を実施する事は予想以上に大変な決断なのだろうし、オープン時には当ビルの全面協力により多くの広告やキャンペーンが打たれ、岐阜県林政部の何名もが自ら一般ユーザーに地酒の試飲を振る舞うという力の入りように驚いた。
その目的は東濃桧・長良杉というブランド材を中心とした岐阜県産材のPR。ブースこそ大きくはないが床材・壁材等の建材からキッチン、一枚板、和室キット、雑貨、DIY小物、健康商品まで、幅広い切り口から県産材を紹介するちょっと面白いコーナーとなっており、知りうる限りのVIPを招待した県も概ね予想以上に高評価を得ることが出来ているようだ。もともと古くから親日と言われる国民性だから当ビルにも日本の大手・中小メーカーが多く出展しており、私が自ら話を聞いたユーザーも日本の建材についてとても好意的に受け入れてくれていたのが印象的であった。
台湾桧の絶大な人気
ただ、たくさん人が来ているからたくさん岐阜県産材が売れるという程現実は甘くない。お隣韓国ほど日本桧の市場認知があるわけでもなく、何より台湾人は自国の「台湾桧」という木材を超絶愛する国民性で、台湾桧以外の日本桧やラオス桧などはその価値感に雲泥の差がある。確かに台湾桧はその独特の芳香や樹齢など他の桧とは一線を画す材木であることは間違いないが、一見すると言い方悪いがただのゴミに思えるかけらほどの台湾桧でも、台湾人の家では綺麗にケースに入れて玄関に飾ったり車に置いたりしてその価値を愛でるのだ。台湾桧の一枚板などは正に台湾人富裕層のステイタスであり、再度言い方悪いが明らかにボロである古材も台湾桧であれば幅も小さく薄くなったとしてもさらに内装材として使えないかと再利用され相応の価格で取引される。
デパートに行けばお洒落なパッケージの台湾桧のハンドクリームが若い女性向けに陳列され、ギフトコーナーにはベビー向けの台湾桧の小さな玩具が販売されている。アロマやリラクゼーションにこだわる日本人女性のように、台湾桧精油のロールオンボトルを持ち歩いてコロコロと自分や他人の手や首につけクンクンと嗅いでニコニコ談笑するその辺のいい年のおじさん集団という光景は、もはや愛らしい。
台湾と日本の桧の相違
それほど文字通り一かけらも無駄にならず有効利用され、文字通り全国民対象に需要と人気と憧れを生み続けている材木は世界中みても他に聞いたことが無い。実は東アジア最大の針葉樹林は台北近くの台湾桧林なので量としてはかなり生えているような気はするが、国を挙げての保護活動で現在は伐採禁止・違法流通禁止となっているため超高級稀少資源として認知されているのだ。その昔は寺社仏閣や高級住宅に使う日本桧の代用品として日本へかなりの安価で輸出していたというから、どのような経緯で今の台湾桧人気になったのかは分からないが、その資源の価値感転換を全土全国民に仕掛けたマーケティング手法があったとするならばそれはそれは脱帽ものだと思う。日本の県産材とは言わないまでも、国産材の桧や杉に対して、日本人が台湾人の半分いや四分の一ほどでも「生活の一部にどうしても取り入れたい!」と熱量を持ってくれたら、日本の森林事情は根底から変わるだろうか。
海外に憧れを持ちがちな日本人と、やっぱり台湾が大好きな台湾人。国産材を死ぬほど愛して海外に流出したくない台湾人と、国産材を愛してはいるが海外に少しでも流出したい日本人。需要が多すぎる故に行政が介入して保護しないと森が荒れてしまう台湾と、需要が少なすぎる故に行政が介入して保護しないと森が荒れてしまう日本。高級資源としての台湾桧と汎用建材としての日本桧。その使途は競合にはならないから、少しでも台湾国内で日本桧の良さを提案したい。