TOUCH WOOD VOL.23
ストレス社会に生きる人へ朗報?!底知れぬ日本の桧・杉の力。
日本の桧や杉の香り成分が、健康につながる?ことを示すデータが少しずつ出始めたとのことで、大学の研究室へ。うちの会社は木の成分研究などで長く大学の研究室にお世話になっている。きわめて日本人的な感覚がきっかけであり、日本の桧や杉の高値な柱材などのプレカット端材がバイオマス原料になったり、破壊されている現実に「もったいない!」と感じたことからこれらの木を粉にして塗り壁を作っている。桧や杉を粉にしたというだけでほとんど手を加えていない素材そのものが、驚くほど調湿効果や消臭効果、抗菌効果を持つことにびっくりしていたのだが、最近さらに誰もが興味のある「健康」に効果があることが分かってきた。
木の力は未開で底知れない
具体的には「桧や杉の香気成分(匂い)を吸入したマウスとそうでないマウスが、いろいろなストレス環境下でどんな行動、反応をするか」という比較などのさまざまな実験をおこなったところ、桧の匂いを嗅いだマウスはストレス負荷を示す数字が劇的に下がり、むしろストレス負荷前よりもリラックスしているなどの数値結果が出た。また杉の香りに関しては神経の鎮静化に作用し、眠りに良い効果をもたらす結果が出た。特に驚いたのは「これらの気の香りは鬱やアルツハイマーの進行抑制に有用なのでは」との見解があるということだ。
”木は癒し”と日本人は何となく感覚的には感じているのだが、リラックス具合を直接測る実験はほとんどおこなわれていないらしい。そうして別の実験では、ちょっと可愛そうだがマウスを迷路に迷わせたりしていると、「桧の匂いを嗅いだマウスは道を覚えたりする記憶・学習機能の改善が見られる」という結果が出た。日本よりも外国で「頭が良くなる、集中力が増す」と過大広告され人気を博している桧だが、ようやく実証データが追い付いてきたということか。さらに桧や杉の抽出成分で錆がなくなるとか、作物に振りかけると大きく早く育つとか、海外の木ではその匂いを嗅ぐと脂肪量が減ったり、肝臓の数値が改善したり、なんと「痩せる」実証データ」が出ている木もあるようで、デジタルがこんなにも発達した現代においても、木の力は未開の部分も多く底知れない。
世界にも通用する木材
木材のことや日本の森の現状を知らないユーザーからすれば、森の危機や建築性能を語られるより、健康やリラクゼーションについて語られた方が「桧や杉を使おう!」となる気がするのだが、日本の木の成分を調べても悲しいかな、今まではビジネスにならないため本格的な研究はなされていなかったというようなことを聞いた。確かに日常使うコスメやリラクゼーション商品で花の抽出成分などは多く使われているのに、木はあまり見かけない。しかし匂いを嗅ぐだけで痩せる木のアロマなどあれば世界中のダイエット市場が大変革になるだろうし、極端に言えば職場のメンタル問題やワンオペ育児の鬱問題も杉や桧がすっかり解決してくれる可能性だってある。将来的に国産材は建材よりも、世界中の人の癒しのために使われた方が付加価値は上がるのではと思ったりもするけれど、そんな性能を一切うたっていない北アメリカ材、ヨーロッパ材がちゃんと近隣エリア以外に輸出ルートを持って、世界中へ生産管理と供給体制を整えてきたのを鑑みると、世界一立米単価が安いであろう日本の杉だって、生産管理と供給体制と販路整備をきちんとすれば、国内どころか世界にも勝負できる木材だという木もしてくる。
地方の山を守る
そして今、地方では県産材、国産材の森を本気で考える取り組みが加速しているように感じる。昨年より森林環境譲与税や森林経営管理法の考え方を通じ、国を挙げて日本の森を守っていこうという方向性が示される中、木の国岐阜県の中でも有名な木の産地、郡上では森林管理者や所有者、林業関係者、行政などが集まり、横の連携をしながら森のIT化や維持管理と将来の計画について本格的な議論をおこなっている。木材流通に携わらせてもらっている身として、そんな山側の努力や考えを汲み、少しでもユーザーや建築現場に伝えていきたい。