TOUCH WOOD VOL.4

韓国の伝統工法による新民家「韓屋(ハノク)」は、顧客満足度300%の癒し住宅だった。

地元民放の某テレビ局から会社に突然電話がかかってきた。聞くと「韓国にヒノキを提案する企業」という企画があり、取材したいとのこと。韓国にヒノキをバンバン輸出しているわけではないが、行く用事があると言うと、じゃあついでに、という感じで突然テレビクルーが出張に付いてくることになってしまった。テレビなど全くコネのない私たちにそんな交通事故みたいな偶然があるのかと思ったが、そんな経緯で今回の材木女子は、韓国へ。

韓国へ

私の会社は、韓国で主流でない木造住宅を建築する韓国パートナーを一生懸命応援している。日本式プレカットを駆使しているだけあって、とにかく日本語を喋るのが速く、ポカンとしていると韓国人同士の日本語でどんどん打合せが進んでいってしまうほど情熱的に木造を立てている。

韓国は何かと日本と似ているのだが、建築はかなり違う。日本では構造の高コスト順でRC造、2×4、在来工法となるところが、そっくりそのまま順序が逆で、在来工法が最高級な構造体なのだ。よって一番の高級住宅は、日本の木造伝統工法の様な「韓屋(ハノク)」である。

そこはソウルから車で「もうすぐ着く」と言われてから数時間走ったどこかの街。危うく北朝鮮の国境を越しそうなくらい端っこの田舎だ。しかし、その丘の上には一区画100坪は超える敷地に、今にも韓国歴史ドラマの豪族が出てきそうな立派な塀のある伝統家屋が連なっていた。工事中の区画は、大勢の大工さんが手で構造を刻んでいるところで、韓国伝統工法について教えてくれた。構造体は、尺角ほどの太い韓国産松を柱とし、筋かいはなく、複雑に流れる屋根は重そうな瓦を何重にも支えており、見た目は日本の寺社仏閣に似ている。

明らかに上半分が重そうなその外観に「耐震大丈夫かな…」と独り言が出てしまい、しまったと思った。私はテレビクルーによって、一日中ずっとマイクが付けられていたのだ。リアルな声を拾い一旦すべての音声を原稿に書き起こすそう。思わず「えっ、無駄じゃないですか?」と聞いてみたが、ロケとはこういうものなのだろう。とはいえ、全く慣れない。長い移動中にしょうもない事を言った後にハッと恥ずかしくなるし、マイクを外し忘れてトイレに行こうものなら大惨事である。

韓屋の住人は、アポなしなのに取材OKで、さらに生活感溢れる家の中まで見せてくれる事になった。某大手航空会社のパイロットだという住人はどんだけ寛容な人物なのか。

平屋のその韓屋は、まだ築1年で綺麗だった。内装はオンドル標準装備、構造むき出しで、どこも一般住宅仕様とは思えない程の太い松や栂、桧を使用。隣の現場のように全て手で刻んだ木材であるから、デザインの好き嫌いはともかく、得も言われぬ高級感が漂う。壁には何とも言えない花の絵をあしらい自然の良さを最大限感じるようにしているそう。パイロットというのはストレスの多い職種なのか、ソウル中心部の高級マンションからこの家に移り住んでから、自然に囲まれ子供にも良いし健康にも良いし、とても気に入っているらしい。確かに、小学生ほどの子供は終始犬と走り回り、きれいな空気の中奥様もゆったりと過ごされ、微笑ましい風景だった。 帰るころにはすっかり夜になった。途中夕ご飯を食べようと言われワクワクしていたが、韓国人運転手がどんどん暗い道へ向かって走っていく。

小1時間ほど過ぎようやく恐怖を感じる程辺り一面真っ暗になった頃、1か所だけ小さなあかりが灯る「カニ鍋」の店に着いた。メニューはカニ鍋のみ。そこにいる全員がソウルに宿をとっているのに、さっきの現場から帰り道と全く反対方向のいよいよ国境付近のカニ鍋の店へ連れてくるなんて。と思っていたが、10センチほどのカニが満員電車の人のように折り重なりギラギラと赤く光る鍋は、グロテスクな見た目とは裏腹に格別の味だった。もう二度と場所が分からないカニ鍋の店だが、オススメだ。そうして数時間後の真夜中、やっとソウルに戻った。