TOUCH WOOD VOL.7
仕上げで生まれ変わる、上杢ではない普通の木の話 。
なんだか野暮ったい感じ。重厚な欅のテーブルにこれまた重厚な欅のテーブル脚。高級な欅(ケヤキ)や栃(トチ)でさえも、上杢のものでさえも、伝統的和室っていう感じだね、良いんだけどねぇ、ステキ!という感じがしないよねぇ。という意見を一枚板を選びに来ていたお客様から聞いた。残念な感じがするとともに、どこかでやっぱりか、と思った。間違いなく素材は良いものだけど、木目の良し悪しではなく、お洒落感が足りないのだ。それもそのはず、銘木業界というものは少子高齢化の煽りを受けているどころか、元気ハツラツな壮年老年のサークルのような青年の少ない業界である。この全体高齢化が課題である一方、目利きというAIではおよそ置き換える事のできない技術の承継に成功してきたとも言えるので、ある意味年をとっても若者に負けない面白味を持つ業界だ。そんな伝統的でクローズドな銘木業界が、近年急激に革新的でオープンな動きになってきた。
野暮ったさを取り払うデザイン力
数年前、台湾で日本の欅をインテリアショールームに置いてくれる事になった。当時一枚板はJETROにも輸出実績が殆どなく外国にはあまり国産のものは出て行っていなかったそうで、そんな素材を実際どう使われているのか、と興味津々見に行った。そこは台北のアストンマーチンとハーマンミラーチェアの店の間にある家具店。ザ・富裕層が散歩する辺りなのだろうか。あの「和」テイストの強い欅が、こんなところの店に合うのか?と不安だったが、店に入った途端、黒とコンクリートの壁や床に、スポットライトに照らされて浮かび上がる木目に衝撃を受けた。センス良い小物に彩られ、スタイリッシュなロートアイアンのフレームに乗っているのは、欅だった。欅と言えば和室のテーブルといった日本での使われ方を知らないデザイナーは、ここまで欅をアップグレードできるのか。欅のダイニングテーブルやPCテーブル、書棚たち。ドイツのソファにもピッタリ合っている。さらに週末には欅テーブルをお披露目するため、ショールーム内にジャズミュージシャンを招き、お洒落なケータリングフードとともに音楽を楽しめるパーティが開催されるそう。日本で感じた野暮ったさは皆無である。加工前の原板の状態を知っている身には、日本の欅を外国人の方がステキにアレンジできるのか、と感動した。それまで、玉杢だなんだと上杢を素晴らしく仕上げる事で高級家具にする作り方を見てきたが、素材としては上杢でも何でもない欅をこのようなデザイナーズ家具に仕上げる事、これがこれからの銘木業界に求められていることなのかもしれないと思った。
アイディアは無限大
そんな事があって数年、業界的には多くのデザイナーが銘木をデザインする事例が年々増えていった。台湾の事例のようにテーブル脚のデザインやインテリアコーディネートで無垢を魅せる方法、また塗装仕上げで無垢を魅せる方法などさまざまな工夫がある。藍染、漆塗り、ピアノ塗装、グラデーション塗装、草木染仕上げ、名栗加工仕上げ、手彫り仕上げ…アイディアは無限大だが、試行錯誤も多くあった。
お正月飾りのように「赤や金が縁起が良い」とされるアジア諸国に向けて赤の漆や金箔を多用して一枚板を仕上げ、満を持して展示会出品した際に「なぜ染めたの?全く流行らないね」的に一蹴されたときはがっくりした。やはりどの国でも素材の色と金属でまとめたようなスタイリッシュな仕上げを要望されることが多いが、一方「藍染」仕上げはサムライブルーとして、上杢でない普通の一枚板をランクアップするのに国内外に大変好評だった。もちろん伝統的な仕上げが時代に合っていないわけではなく、日本人としてはむしろ、ザ・ジャパンな伝統仕上げの上杢のものも次の時代に伝えていきたい。そのうえで、市場で可哀そうなくらいの価格で取引されることもある「上杢でない」普通の木を、デザインや加工仕上げのアイディアによって、今まで銘木に興味の薄かった日本人、若い世代、外国人にも知って好んでもらえるようにしていきたい。