TOUCH WOOD VOL.18

木工職人とDIYの話。

DIY市場が熱い。とは数年前から聞いていたものの、材木屋のくせにインパクトドライバーすらきちんと使えない私には、あまり関心を持たない分野だった。しかし今年、木工所をやり始めた関係で熟練の木工職人たちがあまりにサクサク作業を進めるのを見ていたら、私にもできるんじゃないかと安易に思ってきて、ちょっと話は飛躍するがDIYに挑戦することにした。理屈では世間にDIYする人が増えれば木工職人は困るのではという気がするが、うちの木工所では木工職人がDIY商品を毎日作っている。

「木工職人=木への熱量+器用さ+こだわりの塊」

もともと技術畑でない私にとって、木工職人たちは見ているだけで面白い。家具の接合部をどうしようと数人で話をしていたら、木を繋ぎ合わせるための小さな「ダボ」というパーツについて議論が進み、それぞれの経験値による知見と熱い思いがそこに乗り、普段は物静かなタイプばかりのはずが、なぜか大盛り上がりになるのだ。ザ・高級家具とも言うべきピアノ塗装の大型婚礼ダンスなどをその手で創り出す彼らがダボの止め方ひとつに信念を持っている。このように彼らは「木工職人=木への熱量+器用さ+こだわりの塊」みたいな貴重な人種で、そんな部分をもう少し世間一般に広く見せる事が出来れば「職人になりたい」という若き志も増えるのではと思うのだが、彼らは木工以外になると急にニコニコして言葉少なになる傾向がある、愛すべき人種でもある。

「こだわりと言われても、作ることが好き。としか言えないけど…」と拙い表現で話してくれるそんな彼らの存在と彼らのつくる本物の木工製品に、私は日々癒されているのだ。残念ながら木工ができる人と作業所は極めて速いスピードで減少していき、全てが合理化していく時代の中で、こんなホッと癒される機会を世の中に提供できないものかと思っている。だから「ものづくり」そのものを誰もが体験できる機会を作りたいという思いで、ものづくりどころかビス一本まともに打てない私がついにDIYに挑戦してみよう、とDIYキット商品開発を木工職人と一緒に考え始めたのだ。

「古き良き」を味わえる木工の世界

いざ開発が始まるとプラモデル風のカンタンキットを作りたかったものだから、木工職人からは「こんな単純な加工で(出来る家具を自分たちが作るのか?)!」「こんな簡単な構造では(家具としての強度は大丈夫なのか)!」と次々に含みのある発言が飛び出したが、最終的にはたくさんの人に木工に触れてほしいという共通の思いにより、木工職人のこだわりとこれから木工に触れる人への優しさが詰まったDIYキット商品が出来上がった。どうせ作るなら、日本の森のために国産材活用できるものをという事で国産の杉を使ったのだが、結果、運良く多くのメディアに取り上げてもらえ、当初の目論見通り私のようなDIYと縁がない人達にも「なんかやってみたくなるね」と反響をもらえた。

DIYに興味がなければ必要のない時代にあえてDIYが流行するというのは、そもそも住宅も家具も「直して使う」文化が残念ながら減っている事がその一因なのだろう。わざわざDIYキットを購入せずとも、「古き良き」を味わう日本文化には、伝統技術の木工製品や高品質の家具、日本家屋、古民家など、手入れをしながら使う事を楽しめるコンテンツがたくさんあると思う。素材を売る材木屋のくせにデジタルに囲まれた生活に慣れていたが、アナログ的に触ってみる、作ってみる、という機会は思いのほか充実感が得られるものだと改めて実感した。新品主義になりがちな現代だからこそ、木工を通じて少し手をかける時間を楽しむという豊さを提案し続けていきたい。